今回の参加者インタビュー記事では、外資系消費財メーカーで営業戦略企画室のマネージャーを務めている渡辺龍平さんにフォーカスしました。組織変革への強い意欲を持ちながらも、自身の成長と挑戦に対する焦燥感を覚えていた彼が、SIF Academyを経験して見えたこととは─。彼の決断、挑戦、そしてその過程で得た気づきが明らかにされます。
社会人25年目、渡辺さんはキャリアの転換点にいた
2024年2月にSIF Academyに参加した渡辺龍平さんは、外資系消費財メーカーMars Japan Limited.に 勤務しています。役職は営業戦略企画室のマネージャーを担っています。具体的には、顧客となる小売チェーンや、卸売業者向けの戦略立案、商品開発、店頭で売れる仕組みづくりなどです。
渡辺さんは、渡航前、普段の仕事に満足していましたが、多数の部署との橋渡し(営業とマーケティング・営業と物流/品質管理など)になるような部署で、それぞれの役割や視座が違うためコンフリクトがよく起きることに悩みを抱えていました。
そこで、自分自身が組織変革を担い、コンフリクトが起こらない組織づくりを目指していました。他部署の社員達が自分の視座で物事を言ってしまうことがあるので、視座を全員が高めたり、能力を高めたり、マインドセットの変革なども含めて担っていきたいと考えていたのです。
決断は軽く、決意は固く。周囲の協力を得て実現したフィジー渡航
そんな渡辺さんがSIF Academyプログラムを知ったきっかけは、同社の人事部長で前年の夏にSIF Academyに参加した先輩の話を聞いたときでした。2人で飲みに行った際に、先輩から「今の学生はすごい。自分が持っていないものを持っている人たちがたくさんいる。そんな仲間が集まってとにかく挑戦を楽しんだ。」という話を聞いて興味を持ち、さっそく帰り道にSIF代表の川上にチャットを送ったのが始まりでした(川上も過去に同じ会社に勤め親交がありました)。
渡辺さんがプログラム参加に興味を持った背景には、日々の仕事で組織の変革を進めるにあたって、「自分自身が本当に成長できているのか」「挑戦できているのか」という焦燥感があったと語ります。とにかく非日常的な刺激を求めていた矢先に先輩に話を聞き、このプログラムならそれが実現できるのではないかと考えました。
というのも、このプログラムは、運営も参加者も社会人だけでなく学生も多く参加しているからです。日常生活で関わることの少ない若い世代の彼らがどんな価値観や問題意識を持っているのかを知ること、また、それをフィジーという途上国で自分の後輩である川上たちが取り組んでいる姿を実際に見ることだけでも、新たな刺激が得られると考えました。
もちろん不安もあったといいます。学生が多いプログラムで、年齢的に自分が浮かないか。初めての国と文化に馴染めるか。滞在中はホームステイであるため、受け入れてくれる家族や食事が合うかどうか。
会社の人には、仕事を10日以上休むことを、お願いするというより、「行くことに決めました。ご迷惑はかけません」という姿勢で話したそうです。自分が休むことによって迷惑はかけないように、事前にできることをやり切って渡航しました。
職場の同僚、上司、上司の上司、部下に向けては、休みを取ることと、「フィジーには遊びで行くのではない」ということを時間をとって丁寧に説明しました。進行中の業務が滞らないように、事前に全て提出物を出したり、不在中にタスクを依頼する人に向けて業務マニュアルを作成してシェアしたりしました。また、会議をリスケしてもらうことなども行い、休暇に向けて丁寧な調整を行いました。
家族にも、遊びで行くのではないということをきちんと伝えたそうで、反応はネガティブではなかったといいます。前職でも海外出張を多く経験してきたこともあり、そこで渡辺さんが仕事をする姿を見ていた家族は、「楽しそう」と言ってくれました。渡辺さんの奥さんも海外旅行が好きで、逆に羨ましがっていたほどでした。
大学生の仲間たちと併走しながら挑んだ、ゼロイチのプロジェクト実装
南太平洋に浮かぶフィジー共和国は、透き通った海を筆頭に美しい自然を活かした観光業が盛んです。外資系のリゾート地が多く建設されており、オーストラリアやニュージーランドからの観光客も多くバカンスに訪れる楽園のような国です。近年は、フィジー国民と同数程度の観光客が毎年流入しており、国の経済を支える産業となっています。
その反面、ゴミ問題を初めとする環境問題も深刻です。フィジーには自国でゴミを熱処理する焼却場のような施設を持っていないため、全てのゴミが回収され、そのままの状態で集積している、いわゆる「ゴミ山」があります。
よって、観光ホテルが排出したゴミも全てこの「ゴミ山」に集積されているという現実があります。海外から持ち込まれた製品が、処理する術を持っていないフィジーで廃棄され続けているのです。
そこで渡辺さんは、観光客が自国にゴミを持って帰る仕組みを発案し、ラウトカ市中のホテルに提案して回りました。それが1番シンプルで、かつ継続的・現実的に実施できると考えたからです。
結果として、「ペットボトルを自国に最低1本持ち帰ってください」というメッセージカード設置を、ホテル1件で確定させました。また、市街地にあるゴミ箱100箇所にペットボトルリサイクル推進シール貼付も行いました。
しかし、本音は「本当に辛かった」と渡辺さん。メッセージカードをホテルに1枚置かせてもらうという一見単純な取り組みでしたが、ホテル側は観光客に負担になることを実施することに消極的でした。なかなか交渉がうまくいかず、根気を要する闘いだったのです。
アクション2日目にして同意してくれるホテルがあり、このプロジェクトはうまくいくと渡辺さんは信じていました。ですが、あまりにトントン拍子で話しが進んでいったこともあり、その日の振り返りで「しっかりクロージングができていなかったのではないか」という心配をしました。その予感通り、翌朝に断られてしまったのです。
それからは、ホテルを何件も回って交渉を繰り返しても、1件も成約が取れない日が続きました。プロジェクトを考案したとき、渡辺さんはペットボトルを持ち帰ってもらうお願いをするのは、そこまで難しいことではないと思っていました。しかし、このような取り組みでさえなかなか成立しないという事実を突きつけられ、段々と焦り始めていたといいます。
それでも、少しでも成果を残して帰りたいと考え、シール貼りという確度が高い活動を新たに考案しました。しかし、こちらもやはり壁に当たったのです。現地市役所との交渉段階で「JICAのロゴを入れてほしい」と言われましたが、プログラム残り期間にJICAからの了承を得る時間的余裕はありませんでした。そのため、JICAのロゴなしでも受け入れてもらえるよう交渉しました。
シールのデザインも、周りの力を借りて完成させました。渡辺さんは今までの経験上、細かく情報を入れて作ってもお客さんは見ないことを知っていたのに、いざ自分自身が作るとなった際には文字をたくさん入れてしまっていました。しかし、大学生インターンに冷静にもっと情報量を絞った方がいいと指摘され、「あ、そうだったじゃん。」と我に返ったそうです(尚、この発言から推測できるように、SIFでは年齢・役職関係なく全員が敬語を使用しない、というルールがあります)。
滞在期間中、自分自身の思考が凝り固まっているときに、自分よりふた回りも若い大学生インターンのフィードバックはそれを崩してくれました。
辛うじてデザインを完成させ、金曜日の夕方に印刷業者でシールを発注。スムーズにいくかと思いきや、ここでもドラマが起こります。「期日に間に合わない」と門前払いになりかけたのです。しかし、これを逃すと渡辺さんの帰国に間に合いません。必死で交渉を続けると、なんとか発注を受けてもらえることになりました。そうして、遂に100枚ものシール貼りが実現します。4ヵ月が経つ今でも街の中にシールはしっかり溶け込み、このシールは取り組みを知ってもらったり、現地でSIFの認知度を高めるきっかけになっています。
そして迎えた実働最終日のことでした。シール貼付も終わって次のアクションに迷っていたとき、同じ参加者だった大学生が新たな交渉先として渡辺さんも今までに交渉していたリゾートを挙げ、そこで最後の挑戦をしたいという話をしていました。彼女の話を聞いた渡辺さんは、最後まで自分ができることを全力で行動し続けようとする大学生の姿に奮い立たされ、自分も納得のいく段階まで交渉を帰着させるために、同行することにしました。渡辺さんにとって、4日連続での訪問でした。
最後のホテル交渉でした。渡辺さんは、ホテル側と今まで擦り合わせてきた話を踏まえて、先方の判断で客室に紙を置いてもらう方法に収束させることができました。「やれることはやった」と悔いなく交渉を終えることができたのです。ちなみに大学生の交渉も成功し、全員が満足いく成果を得られました。
しかし、そこで終わらないのがSIF Academyでした。交渉が落ち着き時間が余ったこともあり、最後にもう1つ、今まで1度も訪問したことのなかったホテルに突撃することにしたのです。すると、渡辺さんの提案を快諾してくれ、大成功でプロジェクトを締めくくることができました。
その帰りに食べたソフトクリームは格段に美味しかったと言います。
最大限の準備を備えて渡航したフィジーで、渡辺さんはいつのまにか渡航前に感じていた不安も払拭されていました。自分が考えたこと、思ったことを実現するために本気で集中し続けた12日間に、年齢や経験などは関係なかったのです。
渡航後の職場での変化 ─ 信念を持って行動し続ける
この12日間を通して、渡辺さんは「信念を持って行動し続けることが大事だと気づいた」と語ります。自分が信じていること、やりたいことを口に出してそれを行動に移し続けるということです。
実際に、帰国後職場において変化がありました。本質的な成果を生み出すために、より思い切った言動をすることができるようになったのです。
例えば、業務の新ガイドラインを定めるミーティング。各事業部のマネージャー10人以上が集まる議論の場にも関わらず、全く話が進みませんでした。この議題は各事業部にとって面倒な話であったこともあり、意見を言った人がこのタスクをリードしなければならないという、オーナーシップに欠けた雰囲気を渡辺さんは察知しました。
そのとき、「ルールを変えて新ガイドラインを作ることにより、今より会社を良くできるはず」という想いが渡辺さんを突き動かしました。
そして、重い沈黙を破って「背景や目的は⚫︎⚫︎なんだから、◼️◼️で進めるべきなのでは?」と切り出すことができました。結果、もう1名同じような気持ちを持っていたマネージャーの協力を得て、現在はもう1人を巻き込んで3名で分科会を開くことになりました。現在はタスクをリードする形で完成型が見えつつあるといいます。
渡辺さんは「これからは、組織の変革を達成するためにさらなる挑戦を続けたい」と話します。変革の対象となる範囲は日々のオペレーションレベルのことから、複数の事象部を巻き込んだ新ルールの設定など、多岐にわたります。
細かいレベルではフォルダ整理や効率的なタスク管理を行い、チームで小さくても確実な成果を繰り返し生み出すための土台をつくることで、より大きな単位まで広げようと考えています。
大きなレベルでは、事業部間でいかにうまく協働し、最後のアウトプットを遅延なく出せるか?という問いについて他メンバーと徹底的に議論しました。関連メンバーの役割や責任、マインドセットを明確に定義し伝えることで来季に向けた働き方の変更についても全員の合意を得ました。
そのような成果を生み出す裏には、SIF Academyで日々フィードバックし合った経験があります。
それは、他者との不和を恐れず、適切な強度でのフィードバックをし合うことです。役職も部下も関係なくそれが自然とできるカルチャーを醸成することで、組織としてもう一段底上げができると考えています。
渡辺さんは、SIF Academyで培った、「自分がやりたいことのために信念を伝えて挑戦し続ける力」を活かし、組織の変革を実現するために日々実践を繰り返しています。
これを読んでいる方へ ─ 渡辺さんからのメッセージ
社会人であれば、「問題意識」と「焦燥感」を持っている人におすすめしたいです。たとえば、「会社や同僚はもっとこうするべきだ」や、「自分が成長できているかどうか分からず将来も不安だ」などの思いを持った人たちです。
少しでも今の自分を変えたい、今までとは異なるベクトルからの視点が欲しいという人なら、本当に身になるものが得られると確信しています。ただし、実働はとても辛いですが、本気で臨むからこそ本当に価値のある体験ができると思います。
いかがでしたでしょうか?SIFアカデミーのプログラムでは、どんな年齢のどんな立場の人であっても、自分の主観的な想いを社会に繋ぎ、実現させるかということを限りなく突き詰める時間を経験することができます。そのことが記事を通して少しでも伝わっていれば幸いです。「挑戦したい」「成長したい」という気持ちがあればどなたでもお待ちしております!一緒に、ワクワクドキドキしていきましょう!
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