「異質」で全てが目新しい世界だったのに、ほとんどのことが「普通」になっている。
気づいたらフィジーに来て5ヶ月も経っている。
今日は一段と海が青かったな、とか、
今日はマーケットでオクラが安く買えたな、とか、
明日はゴミ出しの日だな、とか、
そういえば家から見えるゴミ山の煙、今日は気にならなかったな、とか、
今夜はいつもより外の犬が静かだな、とか。
でもついさっき街中の電気が止まって、真っ暗になったことはさすがに平常心ではない(実は2週間に1回、ひどいときは3日に1回くらい停電している)。
ルームメイトは「まあまあこういう時は大人しく寝よう」と70歳くらいの貫禄を見せてものの30秒くらいで寝てしまった。(!)
しかたなく、暗闇の中ひとりイヤホンで音楽を聴く。
そしたら左右前後から、あちこちで音が鳴っているように聞こえる。こんなに立体的で音の数が多い曲だったことを忘れていた。同時にイヤホンで聴く音楽が久しぶりであることにも気がつく。
暗闇に包まれるひとりの時間。
最近、なにも見えなくなってきていることに薄々気づいていた。どんな風景や人にあっても、前のような「異質さ」を感じないことが分かっていた。
だからおもしろく文章が書けない。
余白の時間はいつも、頭で文章の構成を考えていたのに、それもしなくなっていた。
それに少し、自分で自分に落胆していた。気がつけない、と
でも、イヤホンで聞くと気がつく音の数が多くなるみたいに、
生活もそうやって過ごしてみればいいんだと思った。
おもしろさは、自分でどうやっておもしろがるか、にかかっている。
それをまたやってみたくなって、まだ現在進行形で停電しているけれどパソコンを開いた。
暗闇に浮き出る画面にこんな文章を書くのは、とても面白い。ルームメイトは、まだ起きない。